ぽろんの女
氷雨の降る日にぽろんの女の店に入りました。
刑事告発
2017/03/25 - Sat - 06:51
 突然の経理主任の逮捕に支店の中は騒然としている。開店したものの捜査官が支店長室に書類や伝票を運び込んでしまっている。引き継ぎに出かけていた支店長が飛んで帰ってきて青い顔で次長の横に座っている。関係者が捜査室になった支店長室に交互に呼ばれる。私も昼から一番長く呼ばれた。

 告発は検査部長名らしい。頭取を通さずどういうルートで告発したのか。質問を受けていて感じたのは頭取の名前は一切出ていない。あくまでも経理主任の単独犯で告発されている。
「とうとう入ったね?」
 ぽろんが国語の先生の新聞を取り上げて見せる。夕刊に女性銀行員7億使い込みと出ている。
「7億も何に使ったのだな。男に貢いだのか?」
 先生がもっともらしい批評をする。新聞にはまだそれは今後の捜査を待つとある。
 この慌ただしい中次長に退職願を出した。検査部長を待っておれない。すでに入社手続きを終えている。出社は本社の営業部と決まった。
「取りあえず本社の営業部に配属が決まった」
「どこにあるの?」
「銀座だ」
「凄いね」
「飲むのは新橋になりそうだよ」
「新橋ってどんな街?」
「大阪で言う京橋みたいなところだ」
 京橋でよく飲んでいる先生が答える。
 検査部長はどんな人脈で今回の刑事告発に至ったのか。前回の臨時取締役会で頭取に押し切られた形だった。それがこんなにも早く反撃している。頭取の派閥の座長の支店長は全く知らされていなかったようだ。でも私の報告がかなり割愛されて使われていることに変わりはない。どうもすっきりとしない。










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2017/03/24 - Fri - 06:18
 予定より5日早く転職の会社の役員面接が決まって、病気と称して会社を休んだ。それにぽろんの店のお別れ会も欠席だ。役員会では5名の役員と30分の面接があり、3時間ほど待たされて夜の会食があった。グループ外採用で7人が選ばれた。親会社の社長も同席で銀座の本社ビルの地下のクラブで10時まで飲み会があり、翌朝から3時まで入社手続きと社内見学があった。4月1日入社と決まった。
「悪かったなあ」
 ドアを押すと一人でベトナムの本を読んでいるぽろんに声をかけた。
「で、面接は?」
「ああ、4月1日入社だ。面白そうな会社だ」
「それはよかったね」
「それで肩書は?」
「平だ。みんな平から出発するそうだ」
「そういう私もベトナムでは平のおばさんよ」
「何人くらい来てた?」
「常連が17人。立食パーティで精一杯。開店からこんなに入ったの始めて。リエ達も来ていたわ。彼女残念がってたよ。新品のスケスケパンティはいてきたのに」
「そのほうがいい」
「でも私の予定を破ったら殺すからね!」
 壁のカレンダーに赤〇が入っている。最終日に付き10時で閉店とある。





 
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ミルクの味
2017/03/23 - Thu - 07:37
「たまには飲まんかね?」
 内勤の直属の次長が背中から声をかけてくるのを振り払って銀行の通用扉から出る。彼は取締役支店長の使い走りだ。調査をされているのではないかと支店長が疑っている節がある。ようやく36人いる行員のうち?マークは5人まで絞り込んだ。調査で分かったことは頭取が長く支店長をした時期があったと言うことだ。それにこの7億の消失がこの時期から始まっている。
 やはり足はぽろんの店に向いている。今夜はまだ9時にもなっていない。ドアを開けるとこの辺りに住んでいる大学生がカウンターに6人並んでいて、あの国語の先生が一人文庫本を読んでいる。ぽろんの女はビールの小瓶とポールウインナーを先生の横に置く。
「卒業生だってね?3期までは自由な学校だったらしいね。今は落ちこぼればかりだ。でも私にはちょうどいいかな」
 2本目が開けられて並ぶ。ママの胸に目をやって生暖かい甘酸っぱいミルクを思い出す。
「銀行員だってね?」
「ええ、どうも私には合ってないようです」
「なかなか自分に合う仕事は難しいね」
 今日はカーネーションは棚の上にあって降りてきそうにない。その視線を先生に見られたようだ。
「ミルクの味は当分断ち切れないな。でも誰にでもと言うわけでもないようだ。ちょっと初恋した頃のように足がついつい向く」
 話が聞えたのかぽろんの女が楽しそうに笑っている。
「ああしていると30歳には見えないな」
「先生はこれでまだ若いのよ。40歳にも行ってない独身。でもバツイチ。顔に似ず不良よ」











 
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ナンバー2
2017/03/21 - Tue - 06:21
 今回の臨時役員会は頭取の強い意向で行われたようだ。発令を受けたものは今月末までに引き継ぎを行う。私は新しい検査部長に今の報告を送る気はない。ここ数日早く帰っては報告書をまとめる。今なら転勤前の検査部長に渡せる。同時に退職願いを支店に提出しよう。新しい職場が決まらなかったらそれはその時だ。メールと文章で報告書を送る。どこかすっきりした気分だ。

「ご無沙汰ね」
「報告書き上げてたからね」
「いよいよ辞めるの?私より先に旅立ちね」
「今日もベトナム料理かい?」
「行くまでに大体の料理を作れないとね。それにこのビルの立退きの日も近づいてきて来ている」
 3人連れの常連がカラオケを歌っている。
「それとまたリエがしたいってよ。連絡しようかしら」
「いやもういい。もう昔の二人じゃない。彼女はいいお母さんだよ」
「冷たいね。でもいい判断と思う」
 ぽろんは小瓶を抜いて乾杯する。
「最後の日はすっぽかさないでね。二人の記念を収めていく」
「ナンバー2の男としてな」
 彼女の中には今でも初恋のヘッドが生きている。
「生きている人ではナンバー1よ。ベトナムに行くまでに会えてよかった」
「あの日氷雨が降っていなかったらきっとこの店を見つけることはなかった。人生って不思議だなと思う」
「高校時代は顔を合わすこともなかったのにね」







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人生の交差点
2017/03/20 - Mon - 07:01
 支店室に呼ばれた。支店長は上機嫌でコーヒーを喫茶店から運ばせる。

「これはまだ発表されてないので黙っていてくれ。私は本店の検査部長に移る。次長が支店長に代理が次長になる」
「検査部長は?」
「彼は札幌の支店長だ。左遷だな」
「どうだ君を代理に推薦するが?」
 どうも検査部長は派閥に押しつぶされたようだ。もう未練もない。
「いい匂いだな」
 ドアを押すと石田と司法書士が並んで座ってワインを飲んでいる。彼にはワインは似合わないと思いながら定位置に掛ける。
「ベトナム料理の春巻きよ」
とぽろんが皿に盛った春巻きと小瓶を抜く。この前の夜、ぽろんと暴走族のヘッドとの絡みをビデオを見せられて妙に燃え上がった。次は記念に撮ってベトナムに行くと言われている。ぽろんのベットの横にはすでに旅行鞄が出来ていて、部屋は閑散としている。今が人生の交差点と言うものなのか。
「やはり不良仲間は来なかったな」
 同窓会に参加したそういう石田も不良仲間なのだが。
「亮介が今度市会議員で出るそうだ」
 そう言えば司法書士は彼と付き合っていたはずだが、知らん顔をしている。
「ママは同窓会出たことある?」
「一度もない。あそこには何も思い出はないわ」
「同じだな」








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『夢追い旅』『空白』とダンポール箱から出してきた小説をアップしてきましたが、今回は初めての短編で書き下ろしました。私の転機の記念碑です。

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