ぽろんの女
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氷雨の降る日にぽろんの女の店に入りました。
約束
2018/12/13 - Thu - 06:49
「よく出来ている。完璧な調査だ。もうしばらく辞表は出さないでくれ」
 検査部長の短いメールと本店の調査が添付されていた。これは頭取が支店長で在籍していた頃の私が見つけた架空口座の写しだ。この時に7億のうちの5億が消えている。伝票の写しは経理主任と支店長の印しかない。どうも初めは二人でスタートしたようだ。
 今朝から支店長が本店に検査部長の引継ぎに出かけた。かなり急いでいるようだ。もう陰では次長のことを代理が支店長と呼んでいる。それに女性社員から退職した経理の女性が東京に引っ越しするという噂が流れている。支店長がワンルームマンションを買ったとも言う。もう私の知ったことじゃない。どことなく私は除け者にされている。
 ビルの前に立つと大きな看板がシャッターのところに貼ってある。4月1日から解体工事が始まるようだ。
「何が建つ?」
「ワンルームマンションらしい。1階はコンビニだそうよ。辞表出したの?」
 ぽろんには不正の話もしている。
「いや、検査部長から待ってくれと言われている」
「でもその人も札幌に都落ちでしょう?」
「だがいい思いはなかったけど、信用できる人物ではあったな。最後の奉公だよ」
「石田君がお別れ会をしてくれるんだって。会費制で20日だけど来れる?」
 彼が作った張り紙を見せる。
「まあ間違いなく」
「それより3日後くらいの夜空けててね」
「そのDVD売りに出さない約束なら」
「私も恥ずかしいのよ」








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競売
2018/12/12 - Wed - 06:38
 検査部長に倉庫に移された6年前以降の解約睡眠口座を調べるように頼んだ。調査のポイントを詳しく添付した。こちらの報告はまだしていない。頭取が絡むとなると検査部長も頭から信用できない。ただ私が知る限り検査部長は頭取より7歳上でもう定年も近い。ここ3日間営業時間が終わると経理の女性とコンビを組んで金庫に籠って現金有り高が合わない調査を次長に言い渡された。
 帰り道を歩きながら、
「べトナムかあ」
と呟いてまたぽろんの店のドアを押している。
 今夜は私の定位置に若いネクタイをした男が掛けている。彼女は黙って小瓶とポールウインナーを置く。
「2度目の競売が終わり今回は1件入札が入りましたよ」
「これで決まったらどれくらいここで頑張れる?」
「相続放棄しているので立退きに対して金融屋と立退き費用を交渉しています。まとまらなかったら裁判と言う手もあります。粘って半年かなと」
 弁護士はオムライスを食べ終わると何も飲まずに出ていく。
「こちらでないと落ち着かないでしょ?」
と言ってビールを移し替えてくれる。
「本気でベトナムに?」
「まだ半々。でも行くところがなくなるからね」
「ベトナムに行きたいな」
「私と絡んだら運をなくすよ」















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ベトナム
2018/12/11 - Tue - 06:42
 今日は半ば強引に支店長にクラブに誘われた。さすがに調査のことは尋ねて来ず、途中で用事が出来たと席を外した。やはり隣の女がホテルに誘い出した。支店長から金は貰っていると言う。いよいよ支店長が登場と言うことらしい。だがどこまで調査の内容が伝わっているのかはわからない。ホテルに向かうタクシーから降りて別のタクシーに乗り換える。これで足をすくわれた過去の検査員もいる。
 むしゃくしゃしてぽろろんの店のドアを開ける。カウンターの端に国語の先生が文庫本を読んでいる。
「ママは弁護士のところに行っている。適当に冷蔵庫から出してくれと」
 ポールウインナーと小瓶出して定位置の反対の端に掛ける。
「遂に赤いタオルが投げられたね?そのため締め出しを食った。これだけ忠告しておくよ。恋人になったなんて思ったらだめだ」
「この本は誰の?」
 色とりどりの附箋が付いたベトナムの旅行誌だ。
「それはママのだよ。もう半年前から暇があったら見てるよ」
「旅行に?」
「それは君が聞けばいい」
 2本目を抜いて調査中の疑わしい睡眠口座リストを見つめる。今調べられるのは5年目までだ。後は本部の倉庫に運ばれている。疑わしい解約された睡眠口座がすでに22件、3億弱になる。
「ごめんなさい」
 白い息を吐きながらママが戻ってくる。私の顔を見ても平然としている。あの夜は3度も猛獣のように激しかったが、その後は寝息を立てていた。
「ベトナムに旅行?」
「いえ、向こうに住もうかと」
「伝手はあるのか?」
「私の昔のダチが日本料理店をしている」
「リエの仲間?」
「リエは知らないわ。私の2つ上の暴走族のリーダーよ」









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赤いタオル
2018/12/10 - Mon - 06:51
 3日遅れて検査部長から過去5年間の睡眠口座の支店分の報告書が添付ファイルで送られてきた。退職願については何も触れられていない。その代り部長のコメントが付いていた。
「この支店だけ睡眠口座の残高が増えていない。15年に遡って調べると減っているくらいだった」
と異常を知らせている。これは調査した経験だが睡眠口座に1000万を超える残高のものもよくあるのだ。死亡した年配者の場合もあるし、裏口座の場合もある。これを引き出しても騒がれることは少ない。
 今日は次長の調査のついでに報告書に載っていた大口の睡眠口座解約の解約書類を調べてみた。まずすべて現金処理だ。通常現金処理は避けるように指導している。それにサインや押印が微妙に違うように見える。担当は経理主任⇒次長か代理⇒支店長となっている。5人のカウンターの誰の印もない。
「難しそうな顔してるね?」
「ああ」
 声をかけられて顔を上げる。いつの間にか先程までいた作業着の2人は帰っている。目の前のガラスコップにはポールウインナーがまだ2本残ったままだ。腕時計に目をやるが、まだ11時にもなっていない。
「もうクローズするのか?」
 そう言う目の前に幻の赤いタオルが乗っている。
「早すぎるけど、リエの話聞いたらたら堪んなくなったわ。タオルをこの機に及んで投げたら殺すからね」
 初めてぽろんのベットに泊まることとなった。





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睡眠口座
2018/12/09 - Sun - 07:25
「何読んでるの?恋人から?」
 今日は珍らしく早く職場を出た。あの自己都合退職の女性からのメールだ。最近は次長にやたらと面倒な仕事ばかり回されている。
「リエのろけっちゃって」
と陰口をたたきながら、3人連れの相手をしている。離れたところに国語の先生が飽きもせず文庫本を読んでいる。
「・・・私だけ逃げたようで・・・。一つこの銀行で不思議なことがあるのを思い出しました。普通は支店ではローテーションで各部門の調査がされているのですが、ここは睡眠口座だけは経理主任だけが毎年調査しています。私はこれが問題だと一度次長に談判したことがあります。それから何かにつけいじめにあっていました」
 睡眠口座か。10年以上動かない預金で1000円未満が多い。これは最終的に銀行の雑益になる。もう5年ほど前に行員がこの金に手を出した事件があった。それで本店検査部に毎年報告書を送るようになっている。ただどんな報告書か記憶にない。
「面白い視点だ!」
「不倫か?」
 いつの間にか石田が隣に座っていて携帯を覗き込む。
「彼女とは何もなかったよ」
「そんなはずがない」
「俺は運河の前まで窓から見てたぜ。ホテルに入った」
「石田君みっともないよ」
 ぽろんのママに背中を叩かれている。
 今日も赤いカーネイションは戸棚の上にいる。






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『夢追い旅』『空白』とダンポール箱から出してきた小説をアップしてきましたが、今回は初めての短編で書き下ろしました。私の転機の記念碑です。

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