ぽろんの女
氷雨の降る日にぽろんの女の店に入りました。
氷雨
2017/10/08 - Sun - 06:40
 夜中にぽろんから明日の朝6時半に関空に立つと連絡があり、私もまとめていた鞄を持ってタクシーに乗せてもらうことにした。車の中で携帯で東京着の昼の便の予約を入れる。一人もの身軽さは二人の荷物でよく分かる。朝の弱いぽろんは車の中でずっと眠っている。
「どちらに?」
 空港の橋を渡り始めた時ついつい眠っていた私も運転手に声をかけられて目を覚ました。
「新婚旅行ですか?」
「国際線に」
 と言った私にぽろんが笑っている。
「朝は?」
「まだだ」
「最後の食事をしましょう」
 ガラス張りのレストランに上がってビールを注文する。小瓶がないので大瓶で注ぎ合う。
「もう春なのに雪が舞っているわ」
「これ例の恥ずかしい奴。コピーを取るのじろじろ見られて変態みたい」
 ビデオの上に国際郵便の裏が切り取ってある。
「落ち着いたら飲みにおいでよ」
「ハノイの町かいいな」
「お互いどんな人生になるのかしら」
「氷雨に変わったな」
 私はあの夜の氷雨を思い出していた。
 人は偶然に出会い偶然に別れる。

                (完)


始めて短編を書きました。
どうしても長くなる傾向があるので困っています。
次も短編で『刺青』を書き始めましたが、
どうなるのでしょうか?
シオンのモデルはあります。
2年ほど通いいつの間にか同棲をしました。
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おさらば
2017/10/07 - Sat - 07:13
 改めて人事異動があった。頭取が取締役ではない相談役になった。支店長は常務取締役が外れて高知支店長に、次長は本店の総務課長、代理は和歌山の営業係長。頭取には大株主の家系の会長が兼務し、専務取締役に大蔵省官僚が天下りしてきた。検査部長は常務取締役になっている。それに私も検査課長の発令が出ている。
 急に周りが声をかけて来るが、私は今日でおさらばだ。大した荷物もないが鞄に引き出しのものを入れて、定時に通用口の用務員の人に頭を下げてビルを出る。
「検査に戻られるようで」
「いえ銀行員からもおさらばです」
「経理主任はよくそっと裏口を出て支店長の車に乗っていましたよ」
「頭取ですね」
「その頃は私は運転手で歳を取ってから用務員に回していただきました。見ざる言わざるですわ」
 いつものようにドアを押す。
 珍しく先生が若い女性を隣に座らせている。
「彼女は先生の生徒だった子。今年幾つになった?」
 ぽろんが親しそうに話す。
「22歳です」
「先生の元カノ。今はA高校の体育の先生。色々あってここで別れたのよ。別れた記念日でここに二人で来る」
「どうして?」
「またあほなことをしない記念日です。ママは何か今日はいいことある?」
「いえ」
「カレンダーに赤〇をつける日の話覚えていますよ。初赤〇ですよね?」
 珍しくぽろんが照れている。どうも先生にビデオを借りたようです。体育の先生もビデオに指をさしている。










 
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不良時代
2017/10/06 - Fri - 06:29
 細く釣り上がった目。彼女は結い上げた髪を解くと、
「少し肥えたけどイメージは残ってるでしょ」
「リエ?」
「そう。学年一番の不良。2年間ツトムの女」
「だけど今は浮気者の肉屋のおかみ。子供が2人」
「そこまでねいさん言わないでよ。初恋の夢が壊れる。ツトムはまだ独身?」
 ぽろんが気を使って小瓶を2本抜いて前に置いて隣で盛り上がっている。
「ああ」
「ツトムは不良の割には勉強できたもんね。私はすねてたからね。喧嘩ばかりしていた。これ憶えている?」
 リエが財布から小さなお守りを出してくる。
「知らないと言われたら悲しいから、私から言う。学校の近くにある神社で二つ買ってくれた」
 私はそのお守りをすっかり忘れてしまっている。でもこの長い髪と細く釣り上がった目は好きだった。
「今でもツトムの勉強部屋の押し入れ憶えてる。おそらく100回はやったね。いつも口にハンカチを銜えさせられていた。あんだけやったのに子供できなかったのに今の主人とは1回きりで出来ちゃった婚」
「その濃厚な話は外でやって」
 ぽろんと石田が笑っている。それで追い出されるようにネオンの消えた商店街に出る。リエが腕を掴んでぐいぐいと路地に入っていく。
「子持ちだろう?」
「今日は泊まる。そうしないとここの運河に飛びこむ」
「相変わらずだな」
 あの頃お金が出来たら泊まっていたラブホテルがまだあった。







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自供
2017/10/05 - Thu - 06:18
 夜に検査部長からメールが入っていた。

「現在大株主も入って役員会が開かれている。もちろんここでは君の報告が出されて駆け引きがされている。どこまで責任を問うのかが議論されている。そんなに時間はかからないだろうと思う。君の席は検査部に戻す。退職願は考え直せないか」
とある。もちろんノーと回答した。
 朝刊では早くも経理主任が使い込みを認めたとある。2500万のマンション以外とくに資金使途が見られないとある。単独犯も認めている。だが支店内では密やかに噂が飛び交っている。支店長と次長と代理の3人組は応接に籠りきりだ。今日は本店から昔の同僚の検査部員が3名入ってきている。
 やはり足がぽろんの店に向かう。今日は鞄に中にノートパソコンを入れている。転職先から社内誌に載せる挨拶文の依頼が入ってきている。
「赤いカーネーションも赤タオルもなくなったね?」
「もう使うこともなくなったから旅行鞄に仕舞った」
「向こうで使うのか?」
「どうだか?そうそう先程まで石田君がいたのよ。司法書士の彼女と出来ちゃった婚になりそうだと」
「似合わないカップルだなあ」
「外から分からないことが多いのが男と女よ。今日はフォーを作ったけど食べる?」
 私は冷蔵庫から小瓶を出してきて抜く。
「あの経理主任48歳だったね。あれは男に貢いでいたタイプよ。歳から言うと支店長かな?」
「支店長じゃない。もっと上の人だ。だが明かされることはなさそうだ」







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刑事告発
2017/10/04 - Wed - 06:45
 突然の経理主任の逮捕に支店の中は騒然としている。開店したものの捜査官が支店長室に書類や伝票を運び込んでしまっている。引き継ぎに出かけていた支店長が飛んで帰ってきて青い顔で次長の横に座っている。関係者が捜査室になった支店長室に交互に呼ばれる。私も昼から一番長く呼ばれた。

 告発は検査部長名らしい。頭取を通さずどういうルートで告発したのか。質問を受けていて感じたのは頭取の名前は一切出ていない。あくまでも経理主任の単独犯で告発されている。
「とうとう入ったね?」
 ぽろんが国語の先生の新聞を取り上げて見せる。夕刊に女性銀行員7億使い込みと出ている。
「7億も何に使ったのだな。男に貢いだのか?」
 先生がもっともらしい批評をする。新聞にはまだそれは今後の捜査を待つとある。
 この慌ただしい中次長に退職願を出した。検査部長を待っておれない。すでに入社手続きを終えている。出社は本社の営業部と決まった。
「取りあえず本社の営業部に配属が決まった」
「どこにあるの?」
「銀座だ」
「凄いね」
「飲むのは新橋になりそうだよ」
「新橋ってどんな街?」
「大阪で言う京橋みたいなところだ」
 京橋でよく飲んでいる先生が答える。
 検査部長はどんな人脈で今回の刑事告発に至ったのか。前回の臨時取締役会で頭取に押し切られた形だった。それがこんなにも早く反撃している。頭取の派閥の座長の支店長は全く知らされていなかったようだ。でも私の報告がかなり割愛されて使われていることに変わりはない。どうもすっきりとしない。










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『夢追い旅』『空白』とダンポール箱から出してきた小説をアップしてきましたが、今回は初めての短編で書き下ろしました。私の転機の記念碑です。

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