ぽろんの女 2019年06月
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氷雨の降る日にぽろんの女の店に入りました。
競売
2019/06/30 - Sun - 06:16
 検査部長に倉庫に移された6年前以降の解約睡眠口座を調べるように頼んだ。調査のポイントを詳しく添付した。こちらの報告はまだしていない。頭取が絡むとなると検査部長も頭から信用できない。ただ私が知る限り検査部長は頭取より7歳上でもう定年も近い。ここ3日間営業時間が終わると経理の女性とコンビを組んで金庫に籠って現金有り高が合わない調査を次長に言い渡された。
 帰り道を歩きながら、
「べトナムかあ」
と呟いてまたぽろんの店のドアを押している。
 今夜は私の定位置に若いネクタイをした男が掛けている。彼女は黙って小瓶とポールウインナーを置く。
「2度目の競売が終わり今回は1件入札が入りましたよ」
「これで決まったらどれくらいここで頑張れる?」
「相続放棄しているので立退きに対して金融屋と立退き費用を交渉しています。まとまらなかったら裁判と言う手もあります。粘って半年かなと」
 弁護士はオムライスを食べ終わると何も飲まずに出ていく。
「こちらでないと落ち着かないでしょ?」
と言ってビールを移し替えてくれる。
「本気でベトナムに?」
「まだ半々。でも行くところがなくなるからね」
「ベトナムに行きたいな」
「私と絡んだら運をなくすよ」















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ベトナム
2019/06/29 - Sat - 06:58
 今日は半ば強引に支店長にクラブに誘われた。さすがに調査のことは尋ねて来ず、途中で用事が出来たと席を外した。やはり隣の女がホテルに誘い出した。支店長から金は貰っていると言う。いよいよ支店長が登場と言うことらしい。だがどこまで調査の内容が伝わっているのかはわからない。ホテルに向かうタクシーから降りて別のタクシーに乗り換える。これで足をすくわれた過去の検査員もいる。
 むしゃくしゃしてぽろろんの店のドアを開ける。カウンターの端に国語の先生が文庫本を読んでいる。
「ママは弁護士のところに行っている。適当に冷蔵庫から出してくれと」
 ポールウインナーと小瓶出して定位置の反対の端に掛ける。
「遂に赤いタオルが投げられたね?そのため締め出しを食った。これだけ忠告しておくよ。恋人になったなんて思ったらだめだ」
「この本は誰の?」
 色とりどりの附箋が付いたベトナムの旅行誌だ。
「それはママのだよ。もう半年前から暇があったら見てるよ」
「旅行に?」
「それは君が聞けばいい」
 2本目を抜いて調査中の疑わしい睡眠口座リストを見つめる。今調べられるのは5年目までだ。後は本部の倉庫に運ばれている。疑わしい解約された睡眠口座がすでに22件、3億弱になる。
「ごめんなさい」
 白い息を吐きながらママが戻ってくる。私の顔を見ても平然としている。あの夜は3度も猛獣のように激しかったが、その後は寝息を立てていた。
「ベトナムに旅行?」
「いえ、向こうに住もうかと」
「伝手はあるのか?」
「私の昔のダチが日本料理店をしている」
「リエの仲間?」
「リエは知らないわ。私の2つ上の暴走族のリーダーよ」









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赤いタオル
2019/06/28 - Fri - 06:28
 3日遅れて検査部長から過去5年間の睡眠口座の支店分の報告書が添付ファイルで送られてきた。退職願については何も触れられていない。その代り部長のコメントが付いていた。
「この支店だけ睡眠口座の残高が増えていない。15年に遡って調べると減っているくらいだった」
と異常を知らせている。これは調査した経験だが睡眠口座に1000万を超える残高のものもよくあるのだ。死亡した年配者の場合もあるし、裏口座の場合もある。これを引き出しても騒がれることは少ない。
 今日は次長の調査のついでに報告書に載っていた大口の睡眠口座解約の解約書類を調べてみた。まずすべて現金処理だ。通常現金処理は避けるように指導している。それにサインや押印が微妙に違うように見える。担当は経理主任⇒次長か代理⇒支店長となっている。5人のカウンターの誰の印もない。
「難しそうな顔してるね?」
「ああ」
 声をかけられて顔を上げる。いつの間にか先程までいた作業着の2人は帰っている。目の前のガラスコップにはポールウインナーがまだ2本残ったままだ。腕時計に目をやるが、まだ11時にもなっていない。
「もうクローズするのか?」
 そう言う目の前に幻の赤いタオルが乗っている。
「早すぎるけど、リエの話聞いたらたら堪んなくなったわ。タオルをこの機に及んで投げたら殺すからね」
 初めてぽろんのベットに泊まることとなった。





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睡眠口座
2019/06/27 - Thu - 08:58
「何読んでるの?恋人から?」
 今日は珍らしく早く職場を出た。あの自己都合退職の女性からのメールだ。最近は次長にやたらと面倒な仕事ばかり回されている。
「リエのろけっちゃって」
と陰口をたたきながら、3人連れの相手をしている。離れたところに国語の先生が飽きもせず文庫本を読んでいる。
「・・・私だけ逃げたようで・・・。一つこの銀行で不思議なことがあるのを思い出しました。普通は支店ではローテーションで各部門の調査がされているのですが、ここは睡眠口座だけは経理主任だけが毎年調査しています。私はこれが問題だと一度次長に談判したことがあります。それから何かにつけいじめにあっていました」
 睡眠口座か。10年以上動かない預金で1000円未満が多い。これは最終的に銀行の雑益になる。もう5年ほど前に行員がこの金に手を出した事件があった。それで本店検査部に毎年報告書を送るようになっている。ただどんな報告書か記憶にない。
「面白い視点だ!」
「不倫か?」
 いつの間にか石田が隣に座っていて携帯を覗き込む。
「彼女とは何もなかったよ」
「そんなはずがない」
「俺は運河の前まで窓から見てたぜ。ホテルに入った」
「石田君みっともないよ」
 ぽろんのママに背中を叩かれている。
 今日も赤いカーネイションは戸棚の上にいる。






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不幸を絵に描いた
2019/06/26 - Wed - 06:28
 もう何年振りか女の中に精を吐きだしたら、信じられないほどすっきりした気持ちになった。それから検査部長にこの仕事後退職する旨を書いた。どうもこういう仕事は肌に合わない。
「あの日は泊まって何回したの?」
 3日ぶりだ。どうもぽろんのママはリエから報告を受けているようだ。あの頃の暴走族は仲間内で女を回した。今思えば不思議だがあの時はそれで仲間意識が盛り上がった。私は暴走族っではなかったのでリエが抱かれた後は不機嫌だった。
「ご両親の話聞いたよ。大変だったなあ」
「あの子は子供産んでから口が軽くなったわ」
 父親は弟の保証人になって、多額の負債を作って夫婦で自殺をして、離縁になった彼女が2年前にここに戻ってきたのだ。
「このビルも競売中よ」
「清算して残るのか?」
「借金がね。それで石田君の知り合いの弁護士と相談して相続放棄をしたよ。まあまあ踏んだり蹴ったりの人生ね」
「それならどうするんだ?」
「誰も知らない町にでも行こうかってね。でもまだ踏ん切りがつかないよ。私の両親は不良の私と違って生真面目な一生だった。どうも私の分も使ちゃったみたい」
 それでこのビルは彼女しか住んでない訳だ。
「石田が結婚を申し込んだと言うが?」
「だめ。1回だけやったらその気になって。彼では私は持たないよ」






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包囲網
2019/06/25 - Tue - 06:36
 いよいよ私に対する包囲網が狭まってきた。今回はお客のカウンターのカルトンの金が消えたと。カウンターの従業員の女性は泣きだして直属の上司の私が責任と調査を次長から申し渡された。この1週間応接室に缶詰めになって、本来の調査はできず女性は自己都合退職をし、私には始末書を書くように迫った。こういうことも検査をしているとある話だ。
「本店検査部に調査を依頼してください」
 その一言で支店長がこの事件をうやむやにしてしまった。確かにより強引になってきている。そんな夜石田から来いよメールが入った。
「遅いなあ」
 ドアを開けると石田が3人の女性に囲まれて上機嫌だ。
「10日間敦賀と言ってたのじゃないか?」
「女子会があるので飛んで戻ってきた」
「そんな適当な仕事か?」
 少しむかむかしている。今回の件は次長に嵌められたとしか考えられない。
「でも顔が蒼いよ」
 ぽろんのママが珍しく手の込んだ料理を出す。
「そうむくれないこと。私が頼んで携帯を入れてもらったんだから」
 出された小瓶を一気にラッパ飲みする。
「彼女達昔の暴走族仲間。何か月かに1度集まるの。3人はみんな子持ちよ。私だけがふらふらしてる。一番年長なのにさ。彼は大手の銀行マンよ。東京から転勤して里帰り」
「このねいちゃんたちの顔見て思い出さないか?」
 石田が無理やり女性の一人を私の横に座らせる。






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不幸な女
2019/06/24 - Mon - 06:46
 営業責任者の代理に取引先にパソコンの説明に無理やり連れて行かれた。どうもこの5人は連携しているように見える。この会社は風俗を幅広くしているようで、パソコンを一人で見ていると半裸の若い子が入ってきて無理やり抱きつく。これは隠しカメラに取られると部屋から飛び出した。こういうことは検査にはよくあることだ。どうもこの支店では孤立無援なようだ。
「今日は石田は?」
「10日ほど敦賀に出張だと言っていたわ」
「だからメールが来ない訳だ」
 今日はカウンターに資料を広げてもう一度目を通す。ぽろんの女は昨日の激しかった行為をすっかり忘れたようにふるまう。遂に赤いタオルは出て来なかった。
「何をしているの?」
「不正を調べている」
「嫌な仕事ね」
「ああ、もう今回で辞めようと思っている」
 つい本音が出た。
「あたし親不孝な娘なんの。彼氏の暴走族のヘッドとしばらく東京に駆け落ちしてたの。始めての子供が出来たけど彼に言われて流した。それが5年後足洗う時に事故で死んじゃった。二人とも真面目にやろうとしてたのにね」
 彼女も小瓶をラッパ飲みしている。
「それから5人かな6人かな彼氏が代わったけど顔も覚えていない。最後の彼氏とに子供が出来た。2年前かな。それが生まれてすぐに死んじゃった。やっと母親らしくって思ったのにね。それで彼に離婚された」
 この話はまだ続きそうだったが、新しい3人連れが入ってきて途切れてしまった。






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経理主任
2019/06/23 - Sun - 06:55
 石田に携帯を教えたら夕方に何度もメールが入ってくる。
「今日は何時に行く?」
とこればかりだ。
 3日後に、マンションの個人用のパソコンに検査部長からメールが入った。5人の経歴が添付されていて、とくに経理主任の女性についてはコメントが入っている。この中で今の頭取が支店長だったときにいたのは彼女だけだと言っている。そのときすでに彼女はベテランで頭取との噂があったとある。それで今日は一日中彼女の動きを見ていた。どうも40歳半ばでまだ独身のようだ。
「遅いな」
 石田が国語の先生と飲みながら言う。
「月末だからね。たくさん報告ものがあるのさ」
 確かに時計を見ると10時半を回っている。カウンターに掛けるとポールウインナーが赤いカーネーションとともに投げ込まれている。
「悪いが今日は先生と梯子する」
と入れ替わるように出ていく。ぽろんは当然のようにクローズのカードをかけてドアを閉める。
「久しぶりに待ち遠しかったわ。あなたって不良の匂いがする」
 そう言えば銀行に入ってから不良をピタッと封じてしまっている。今日は初めて長ったらしく唇を吸っている。私はどうしてか黒縁眼鏡の経理主任の顔が彼女に似ていると思った。ぽろんの乳房がはち切れそうに膨らんでいて青筋が立っている。






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同級生
2019/06/22 - Sat - 06:38
 内偵の報告は検査部長に直接送るのでマンションに帰ってからの作業になる。5人の疑わしい部分を書きこんで調査の進捗報告をする。5人は支店長、次長、代理、経理主任、経理担当だ。ほとんどの幹部が関わっているように思える。それほど核心に迫っていないと言える。
「久しぶりね?」
 5日ぶりにドアを開ける。今日は小雨が降っているがそれほど寒くない。傘を壺に入れると細い鋭い目に出会う。
「3日空振りの石田君よ」
 彼は作業服を着ていて焼きそばを食べている。やはりビールの小瓶をがぶ飲みしている。
「こいつはなあ。クラス一番の不良女と付き合っていた。それで喧嘩を吹っかけてやった」
「それはあんたの片思いや?」
 ぽろんに笑われて急に石田はにやけた顔になる。
「ママのアルバム見せてくれって言ったらお預けくっている」
 さっと立ち上がってアルバムを開く。
「長い髪に長いスカート、スケ番のスタイルや。俺は1年の時憧れていた。それで声をかけたら暴走族のヘッドにぼこぼこにされた」
「ただ路地で寝てただけでしょう。大げさなんだから」
 新しい2人連れの客が入ってくる。
「赤いカーネンションは?」
「お世話になった」
「そうか。次は赤いタオルや。俺はそこまでに1年と半かかった。それから結婚を申し込んだが、あっさりと断られた。男性不信なんだってさ」






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アルバム
2019/06/21 - Fri - 06:43
「いつも遅いのね?」
 今日は11時を回っている。ぽろんの女は積み上がった皿を洗っている。
「多かったようだね?」
「いつもいつも閑古鳥が鳴いていたら。そうそう」
と言いながらガラスコップにポールウインナーを投げ込む。それからぶつぶつ言いながら戸棚の中からアルバムを出してくる。
「3期生だって言ってたね。クラス憶えてる?」
「3-2だったかなあ」
「じゃあ文系だね。このクラスは昔から不良が多かった。あれあれこれね?」
 10数年ぶりのご対面だ。もうアルバムさえどこにあるのか覚えていない。
「3期のアルバムがあるわけ?」
「お客が持って来てくれる。去年のまで全部揃っている」
「ママのが見たいな?」
「ダメ。もっと親しくなってからね。同じクラスの石田君憶えている?」
と言って写真を見せる。
「一度大ゲンカしたな。彼もここに来る?」
「一時は毎日来てたわ。今は電気工事で各地に出張してる」
 バタンとドアが閉まる音がして、鍵をかける音がする。次の瞬間ピンク色のセーターからぽろんと形の良いおっぱいが飛び出して押し付けられる。
「今日はたくさん出るからまんべんなく吸ってね」
 いつの間にか造花の赤いカーネンションがガラスコップに刺さっている。







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カーネーション
2019/06/20 - Thu - 06:46
 3日ぶりにドアを開ける。どうしても彼女が言ったミルクの味は思い出せない。あれは一つのジョークだったのか。今日は氷雨の降らない暖かい夜だ。まだ9時を過ぎた時間だ。
 カウンターに2人が座っている。作業服を着た近くの工場の人?もう一人は背広にネクタイの年配の人。彼女はあの日の記憶がないようにカラオケをセットしている。でも無言でビールの小瓶を抜く。私は落ち着いた雰囲気になって鞄からファイルを出して目を通す。
 7億の金が消えている。これが私が所属していた検査部の結論だった。だが難しい社内体制で強硬な検査を行えない。上席の検査部長は平取りで中間派、この支店は歴代の頭取派の支店長が取り仕切っている。それで課長代理補だった私が人事に移って派遣されることになった。
「今日は焼きそばが残ってるけど食べる?」
 カウンターに千円札が2枚、どうやら作業服の人が出て行ったようだ。それに合わせて音楽に切り替える。
「それでミルクの味忘れてしまったの?」
「記憶に無いなあ」
「でも今日はだめよ」
「彼女はねえ、その気がある時はポールウインナーのガラスコップにカーネーションを挿すんだよ」
「先生はA高校の国語の先生」
「今日はカーネーションがあんな棚の上にある」
「こんな堅物だけどぽろんの常連よ」
 先生が生徒のおっぱいを吸うの思い浮かべて、つい親しさを覚えて話し込んでしまった。





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ぽろんの女
2019/06/19 - Wed - 06:09
 カウンターの中からぬ~とショートカットの女性の顔が上がってくる。つい後ずさりして、 「もう閉めるならいいですよ」 「ここはお客さんがいたら閉めません。でも今日はポールウインナーしかないけど?」 「好物です。ビールは?」 「小瓶でラッパ飲みを」 「それも慣れています」 「始めて見るね?」 「ええ、東京から来ました。始めてこの駅の近くの店に入ってみようと」  小瓶が出てポールウインナーが無造作にガラスコップに5本もさされる。ママも小瓶を飲んで止めていた音楽を流す。 「カラオケは?」 「いいです。先ほど気が付いたのですが、ここは古本屋があったのですね?」 「よく知ってるね?1階にね」 「ビルじゃなかったかと?」 「このビルは昔からあった。記憶ってあやふやなのよ」 「でも古本屋の黒縁眼鏡の親父さんは覚えてる」 「それは父よ。高校は?」 「A高校だよ」 「じゃあ、何期生?」 「3期生」 「2つ下ね」  何を話したのかいつの間にか氷雨も止んで、窓が薄明るくなっている。上半身に毛布が被されて、サンドイッチとコーヒーが湯気を上げている。 「私のおっぱいのミルクどうだった?」
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氷雨
2019/06/18 - Tue - 06:54
 傘を叩く氷雨の中、最終電車でこの駅に降りた。
 昔の実家があった駅だが、もうすっかり風景が変わってしまっている。家族でよく行っていた寿司屋のビルもシャッターが下りたまま。商店街のネオンも消えている。そう言う実家も東京に引っ越してもう10年になる。それがどんな因縁か3か月前に人事部から出向になった。
 それで少し時間はかかるが懐かしくなって実家の近くのマンションを借りた。それなのに毎日残業続きで実家の跡も商店街もまだまともに見ていない。
 今日は体中が重く沈んだ気持ちだ。それで職場の銀行の近くで飲んだがまだ飲みたらない。同僚や上司とは飲むなと指示を受けている。それでいつも一人立飲み屋による。今回の仕事は半年を目途でと言われているが半分過ぎた。まだ先が全く見えない。
 傘をさしたまま古いビルを見上げる。昔もあったような定かではない。ここも入口の店はシャッターが下りていて看板も薄れていて割れたところから黒ずんだ蛍光灯が見える。3階に唯一明かりが灯っている窓がある。その光に吸い寄せられるように傘を閉じてエレベターのボタンを押している。
「もう終わってるだろうな」
と繰り返すががたんと揺れながら上がっていく。
 そう言えばここには昔古本屋があって高校の帰り道寄っていた。黒縁眼鏡をかけた年配の男性が箱のような台に一日中座っていた。エロ雑誌を見ているとはたきを持ってわざとらしくやってくる。
「帰るか」
 エレベターから踏み出して足が止まる。廊下にスタンドが出ている。氷雨が窓ガラスに当たる音が廊下に響いている。
「明日は休もうか」








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氷雨
2019/06/17 - Mon - 06:41
 夜中にぽろんから明日の朝6時半に関空に立つと連絡があり、私もまとめていた鞄を持ってタクシーに乗せてもらうことにした。車の中で携帯で東京着の昼の便の予約を入れる。一人もの身軽さは二人の荷物でよく分かる。朝の弱いぽろんは車の中でずっと眠っている。
「どちらに?」
 空港の橋を渡り始めた時ついつい眠っていた私も運転手に声をかけられて目を覚ました。
「新婚旅行ですか?」
「国際線に」
 と言った私にぽろんが笑っている。
「朝は?」
「まだだ」
「最後の食事をしましょう」
 ガラス張りのレストランに上がってビールを注文する。小瓶がないので大瓶で注ぎ合う。
「もう春なのに雪が舞っているわ」
「これ例の恥ずかしい奴。コピーを取るのじろじろ見られて変態みたい」
 ビデオの上に国際郵便の裏が切り取ってある。
「落ち着いたら飲みにおいでよ」
「ハノイの町かいいな」
「お互いどんな人生になるのかしら」
「氷雨に変わったな」
 私はあの夜の氷雨を思い出していた。
 人は偶然に出会い偶然に別れる。

                (完)


始めて短編を書きました。
どうしても長くなる傾向があるので困っています。
次も短編で『刺青』を書き始めましたが、
どうなるのでしょうか?
シオンのモデルはあります。
2年ほど通いいつの間にか同棲をしました。
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おさらば
2019/06/16 - Sun - 06:51
 改めて人事異動があった。頭取が取締役ではない相談役になった。支店長は常務取締役が外れて高知支店長に、次長は本店の総務課長、代理は和歌山の営業係長。頭取には大株主の家系の会長が兼務し、専務取締役に大蔵省官僚が天下りしてきた。検査部長は常務取締役になっている。それに私も検査課長の発令が出ている。
 急に周りが声をかけて来るが、私は今日でおさらばだ。大した荷物もないが鞄に引き出しのものを入れて、定時に通用口の用務員の人に頭を下げてビルを出る。
「検査に戻られるようで」
「いえ銀行員からもおさらばです」
「経理主任はよくそっと裏口を出て支店長の車に乗っていましたよ」
「頭取ですね」
「その頃は私は運転手で歳を取ってから用務員に回していただきました。見ざる言わざるですわ」
 いつものようにドアを押す。
 珍しく先生が若い女性を隣に座らせている。
「彼女は先生の生徒だった子。今年幾つになった?」
 ぽろんが親しそうに話す。
「22歳です」
「先生の元カノ。今はA高校の体育の先生。色々あってここで別れたのよ。別れた記念日でここに二人で来る」
「どうして?」
「またあほなことをしない記念日です。ママは何か今日はいいことある?」
「いえ」
「カレンダーに赤〇をつける日の話覚えていますよ。初赤〇ですよね?」
 珍しくぽろんが照れている。どうも先生にビデオを借りたようです。体育の先生もビデオに指をさしている。










 
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『夢追い旅』『空白』とダンポール箱から出してきた小説をアップしてきましたが、今回は初めての短編で書き下ろしました。私の転機の記念碑です。

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